和泉石材店

BLOG 「一言石句」

プロポーション

DATE 2010.10.04

pro-1.JPGモノの美しさの基本となるのがプロポーション(比率)です。プロポーションが間違っていると、色を塗ったり仕上をいじくり倒しても修正が出来ません。美しさの最も基本的な要素と言えます。全ての創作物に共通した概念ですので、建築や絵画、フォントやテキスタイルといったもののうち、優れた作品には何らかのプロポーションが潜んでいます。計算してそれを導き出しているものもあれば、極めて直感的に導いているものもあります。美しい製品をプロダクトとして世に送り出すには様々な制約がありますので、総合的にまとめる高度なデザイン力が要求されます。建築の世界でもこういった形態分析の書籍が出てまして、これ以外にも色々と参考にしています。

gorin-1.JPG今回は五輪塔と呼ばれる石碑のデザインを深く掘り下げました。五輪塔の意味は話せば長くなりますのでここでは省かせて頂きますが、現在のお墓のルーツとも言える石碑です。その形にも意味がありまして、形状を変えすぎると本来の意味から外れてしまいます。かといって過去の歴史の反復ではまともなモノにはならないと考え、全てのバランスを1から考えてみました。図面による実寸指示で成形し、最後は「感性」で細部の修正を行います。毎回同じデザインを連続して制作するFLATシリーズは型をおこして作成しますが、五輪塔はそうはいきません。Rの連続する部分は最後は人間的な直感に任せた方が良いと思います。もちろんその直感を鍛えるのは、常日頃の鍛錬しかありません。美術館に行ったり、美しい建築物を見たり、少しでも質の高いデザインに接することがその基本です。

gorin-2.JPG五輪塔の部材を見ると、意外と建築物に近い要素がある事に気がつきます。仏舎利と同じような意義を持つ五輪塔が、一部が屋根を思わせる形状をしているのはその為です。屋根の曲線で連想するのはもちろん寺社仏閣の瓦屋根。あの美しい曲線は何処から来るのか。屋根の主目的は雨風をしのぐ事、つまり、水が最も効率よく流れる為の仕掛けでもあり、空からやってくる水の力を上手く受け流す曲線があのカーブなんです。屋根の端部が僅かに上がっているのは水の勢いを止める為。そういった自然との対話によってコンパスや定規では表現しきれない曲線を繋ぎあわせた日本のデザイン。五輪塔というたった1つの石碑にもそういったエッセンスを盛り込んで再構築してみました。特に真ん中の丸い団子みたいな所、これが全体に及ぼす影響が最も大きく、真円ではなくちょっと上から押さえたようになっています。ある種の緊張感をここで和らげているのと石碑に生命感を与えたかったのです。角張った形状の石に挟まれた丸い石から何だか優しい印象を持つと思います。

gorin-3.JPG写真の中に、びしゃん仕上、小叩き仕上、水磨き、本磨きの各仕上が施されています。テカテカの本磨きばかりではバランスが取れないので細かく仕上を使い分けました。何かが出しゃばってはいけません、大切なのは全体の調和です。出来上がった直後は真っ白な感じがしますが、経年変化でどんどん風合いが増していきます。施主様の理解が無いとこういう仕上は受け入れてもらえません。石の持ち味を色々なカタチで楽しめると思います。クラシックで新しい、暖かいデザインの五輪塔です。デザインの中でも古典的なものは非常に難易度が高いものです。私の場合父親がそれにチャレンジした手本がありました。私は全ての石碑の中でその石碑が最高のデザインだと思っています。その写真は施主様もいますので公開出来ませんが、それを超えようと今回相当に気合いが入っていた訳です。父が描いていた図面も出てきたし、コピーすればそれで良いのでしょうが、それはすべきではありません。石という素材の持ち味を引き出す事と、全体のバランスで勝負しました。非常に難しいお仕事でしたが、難題を与えて下さった施主様に心底感謝致します。