和泉石材店

BLOG 「一言石句」

建物と味

DATE 2019.09.13

unagi1908303.jpg熱海からの帰りに三島へ行く事にしました。その目的は鰻を食べることです。三島駅にほど近い「桜家」という鰻のお店です。創業は何と安政三年(1856年)だそうで、この創業年が私の記憶を呼び起こす事になります。骨折で運転出来ない私はこの日が誕生日。モノをお祝いされるより、消えて無くなるモノの方が有り難いため、毎年誕生日は旅に出ると決めています。お誕生日の昼酒を呑みながらまた一つ歳を重ねるのです。

unagi1908301.jpg程なくして運ばれてきた鰻重は関東風に焼かれたもの。要するに蒸し焼きです。ふんわりした最高の焼け具合。そしてタレはさっぱりした感じ。素晴らしいです。この味を更に引き立てていたのが建物。古くて手入れの行き届いた木造の建物は、叩きの土間が歴史を感じさせます。そしてBGMは無し。タイムスリップしたような感覚で、ただただ美味しい鰻を食べるのです。何だかお店の創業年である1856年に飛んできたかのよう。この建物で食べるお陰で味は5割増しです。

unagi1908302.jpg実はちょっと前に谷口吉郎が設計した原敬の記念碑の記事を読みました。その原敬が生まれたのが安政3年。まさにこの鰻店の創業年と同じ。日本初の政党内閣を組閣した原敬は、生涯「一山」を号していました。「白河以北一山百文」というのは、東北に対する侮蔑表現。その悔しさを胸に政界のトップになったのが原敬。そしてその記念碑を設計した谷口吉郎は、墓碑は記憶や思いの触媒のようなものと言います。建物も同じ事で、良い建物は色々な触媒反応を引き起こすのです。私が食べた鰻がまさにそれで、美味しい鰻がより特別な味がしたのは、明らかに建物が原因。ですが建物で塩分濃度や旨み成分が変わるはずもありません。物理的には一切作用をしていないのです。そんな事を考えていたら、次女の喉に鰻の骨が刺さって大騒ぎ。楽しい誕生日会はお開きとなりました。安政三年の縁が思わぬタイムスリップ体験を引き起こし、一人勝手に盛り上がっていました。誕生日最高です。