椅子の楽しさ
DATE 2011.02.23
我が家にあるフィン・ユールのNo,53という椅子は、何十年か前に作られたオリジナルの椅子です。ニールス・ヴォッターという工房で作られたのですが、その椅子を現在キタニさんでリプロダクトしています。オリジナルの図面を元にこの椅子を製作しているのですが、ウチにあるNo,53とリプロダクトの椅子の間に何となく違いを感じていました。その理由が解らないままもう十年近くなりますが、今回座面のリペアをするために、ハンドワークデザインスタジオさんに持ち込んだ所、何とリプロダクトと比較する機会に恵まれました。色の違いや素材の違いはここでは問題ではありません。問題はそのディテールです。写真の左がオリジナル、右がリプロダクト。チラッと見えている前脚ですが、オリジナルはやたら先が細いのです。背の最上部の曲面が微妙に違っていたり、他にもあれこれ差があります。
総じて言うと、オリジナルの方が抑揚が効いていて、全体がシャープに見えます。全体の部材が細いので、より軽快な印象を受けます。じゃあオリジナルの方が良いじゃないかという事になるのですが、それがそうでもないのです。オリジナルの部材が細すぎて、壊れるケースが非常に多いのです。ウチの椅子も一度破損しています。実用性とデザインの難しいバランスを考慮し、ギリギリの所で作っているのがリプロダクトです。この椅子の最大の見せ場であるアームの造形に関して言うと、断然リプロダクトの椅子の方が綺麗です。フィン・ユールの想い描いていたアームは、リプロダクトの方が忠実に再現していると思います。2枚目の写真をよく見ると、オリジナルの方は構造に関わる部材が全て一回り細いのです。デザイン的にはその方が綺麗なんですが、とにかく壊れやすい。そんな壊れやすさすら魅力的に思えてきたら、椅子にのめり込む可能性大です。個人的には危険なディテールが潜んでいるのがフィン・ユールの魅力と思っています。彼のデザインは決して無難なものではありません。日常の生活にパンチを入れてくれる。私は毎日パンチされてます。