No,53
DATE 2009.08.23
フィン・ユールのNo,53です。7〜8年近く前に入手したもので、リプロダクトではなくニールス・ボッター工房で製作された一脚です。張地も当時のままの状態ですが、座面が破損していたのでキタニさんに一度リペアをしてもらいました。木部はチーク材で出来ており、非常に良い風合いになってきています。フィン・ユールの椅子は、ウェグナーの椅子と違い構造的な欠点が以外と多いんです。この椅子の場合、アームの先の方に真鍮の細い柱があるんですが、これが壊れやすかったり、座面を支える梁材が割れやすかったり。この辺はデザインと実用性のバランスの問題でしょうか。個人的には最も好きな家具デザイナーはフィン・ユールです。
そもそもフィン・ユールは家具職人ではありません。そこがウェグナーとの決定的な違いでもあります。職人であるウェグナーの生み出す椅子に構造的な欠陥が少ないのは当然だったのかもしれません。一方のフィン・ユールはニールス・ボッターといった一流の職人との共同作業を経て作品を世に送り出していました。でもそれがフィン・ユールの椅子の決定的な魅力になっています。ウェグナーの椅子の堅実さとは正反対の危うさとか脆さが同居した何とも言えない雰囲気。ある種の緊張感がある椅子といってもいいです。私の元々の職業である建築設計はまさにフィン・ユールの世界。良い職人さんとの共同作業で建築は生まれます。大工さんが設計した家とは根本的に違います。今の石屋も同様に、良い職人さんとの共同作業です。石工さんが設計している石屋さんとは根本的に発想が違います。これはどちらが良いとか悪いではなく、ウェグナーとフィン・ユールのような違いです。どちらが良いかはお客さん次第。そういう視点でモノを見ると色々な発見があると思いますよ。
- CAT:デザイン